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福祉心理学とは
高齢者や社会的養護を必要とする児童等、生活する上での弱い立場に置かれがちな人々に対する適切な支援を、心理学的な観点で考える学問です。
同時に、弱い立場の人々に限らず、すべての人々がより豊かに、幸福に生きることにつながるwell-being(よりよい生き方、在り方)の考えにつなげる学問でもあります。
福祉心理学は1990年代から心理学の応用分野として新しく発展してきました。
従来の物理的なケアを中心とした福祉的支援だけでなく、心理的な支援を視野に入れた福祉活動が基本となります。
そのために、福祉的支援の対象者をよく理解し、状況や個々に合わせた対応を求められます。
支援を必要とする弱い立場の人々との共生社会を実現していくにあたって、福祉心理の基本は大いに貢献する可能性があります。
高齢者における福祉心理
高齢者は様々な面で身体的な不便を感じておりそれに伴い、とまどいや不安といった感情が生まれたり、頑固になってしまったりする傾向があります。
その中でも特に、多くの高齢者は「喪失感」を感じているケースがよくあります。
身体面では、視力や聴力などの五感、運動機能や体力、記憶力なども低下してくるため、今までは簡単にできていたことができなくなったという状況から喪失感を感じてしまいます。
さらに自身の容姿も変わっていくことでも、喪失感を感じる高齢者もいます。
精神面でも、子どもが自立して役割を失ったと感じる人や、退職をしたことで社会的にも役割を失い、喪失感を感じてしまう人がいることでしょう。
親戚や友人との死別も、今まで以上に身近になってくるため、大きな喪失感を感じると同時に自身の死も意識するようになりがちです。
こういった「喪失感」を代表とする心理に対してのケアが「高齢者における福祉心理」を考える上で必要となります。
そこで、介護をする側の人にとっては、高齢者を身体的に支援するだけでなく、コミュニケーションを取ることが重要となります。
具体的には下記の3つです。
- 高齢者のペースに合わせた支援
- 聴き取りやすいように、低めの声でゆっくり話すこと
- 相手の話に耳を傾けること
この3つを高齢者の性格や状況に合わせて臨機応変に取るということです。
高齢者は動作が遅くなりがちです。そのため、急かさずに見守るようにコミュニケーションを取る必要があります。
高齢者本人ができることには手を出さないことは、自立支援にもつながります。
また、高齢者は聴力が低下しているため、会話をする際はわかりやすいようにゆっくりと明確に話すことが重要となります。
さらに、高い音は聴き取りづらくなっているため、低めの声で話すことが望ましいです。
身振りや手ぶりを用いたコミュニケーションも高齢者との理解を深めるにあたって有効といえます。
高齢者の話にも耳を傾け、興味や関心があることを引き出すことで、高齢者が楽しみを見つける手助けをすることができます。
以上のような高齢者とのコミュニケーションといった心理的なケアも、重要な福祉的支援です。
認知症患者における福祉心理
高齢者の中でも約7人に1人が認知症であるといわれています。
認知症になると、福祉支援がさらに必要となるため、心理的な観点でもより深い理解が必要となります。
認知症患者の心理的な特徴は不快、不安、混乱、被害感情、自発性の低下による抑うつなどがあげられます。
認知症患者が物忘れをした際に、思い出すまでイライラすることや不快な気持ちになることがあり、これが頻繁に起こるとストレスが慢性化し、挙句の果てには常に不快な感情を抱くことになります。
周囲で起こっていることへの理解力が低下しているため、認知症患者が混乱をすることも珍しくありません。
さらに自分のものがなくなった時に「盗まれた」と認識し、認知症患者と介護者との間の人間関係にも影響することも認知症の特徴です。
認知症患者への心理的な観点を含めたケアの基本原則
- ゆっくりと、楽しく接する
- 自由に、ありのままを受け入れる
- 「してあげる」支援から「一緒に過ごす」という支援へ移行する
- 残された力で暮らしの喜びや自信を持ち続ける
- なじんだ環境のもの、ことを大切にする
- 地域や自然と触れ合いながら過ごす
これらは一見単純な事項とも思われがちですが、認知症患者の心理的な安定や、残った力を発揮しながらの意味合いがある暮らしのためには必要不可欠なものです。
日頃よりこれらの基本原則を意識しながら福祉支援を展開していくことが認知症患者に対しての福祉において重要となってきます。
例えば「物を盗まれた」と認知症患者が話した場合も、むやみに本人の発言を否定するのではなく、話をよく聞き相槌を打ち、本人の感情を受け入れるといったケアが必要となります。
そうすることで本人に精神的な安定を与えることができます。
こういった認知症患者に対する心理的な支援は、1970年代頃までは注目されていなく患者の行動を一方的に抑制するといった処置がとられていました。
福祉において心理的な観点が注目されるようになり、この基本原則のような点を視野に入れた介護がこれからの社会に必要となってきます。
児童に対しての福祉心理
児童福祉における心理的な支援は児童養護施設や児童自立支援施設などと、施設の種類やその環境によって大きく左右されます。
しかし、心理的支援を実施する場と、子どもが生活をしていく場が同一であるという点では施設の種類や状況に限らず共通しているといえます。
週に1日の心理的な支援を行ったとして、残りの6日間や今後の生活においてもその支援が治療的に機能されることが重要となります。
心理的な支援が児童の生活場面に入り込んでいくことを前提に福祉を行う必要があるということです。
例えば虐待を受けた児童においては、心の傷を「治す」という治療モデルというより、むしろ「児童の発達を促す」という成長モデルという視点で児童と関わることになります。
日常生活そのものが児童にとって成長促進となる場になることが児童を支援する上で重要となります。
そのためには、支援の対象となる児童と生活を共にして、的確な見立とチームアプローチに基づいて、個人と集団のバランスに配慮すると同時に、不測の事態には児童の背景も考慮しながら臨機応変に対応することが必要となってきます。